母と子の剣道日誌(120)初段に向かって打て!(1)審査前の試練、ふたたび。から続いています。
お風呂を出てから、私は主人に言いました。
「なんで、あなたは人のできてないところしか言わないの?
人を評価するときは、まずできているところから言うほうがいいって、前から言ってるじゃない。
自分を認めてもらってない、って感じたら、せっかくのアドバイスも聞く気にならないんだよ」
こういう話、以前にも何度もしたことがあります。
私相手に限らず、子供に対しても主人はそういう感じなのです。
そして、ほめることがないわけではないのですが…
主人は「結果や才能はほめる」けれども「努力の過程はほめない」のですよ。
主人自身が、苦手なものをこつこつ努力してできるようになった事がないからなのでしょう。
「努力の過程が楽しい」とも思ったことがない、と言っていました。
でも、結果しかほめないのでは、子育てのうえでも困るし、
私だってそんな言われ方、されたくありません。
主人は、私の文句にムッとしたのでしょうね。
「そう…、じゃあ、はっきり言うよ。
お前、俺が想像してたより、全然できてなかったんだよ。」
と言い放ったのです。
「あんなに一生懸命稽古に行ってて、筋肉も今までよりはだいぶついているようだから、もっとできてるんだと思ってたよ。
でも、面もしっかり打ててないじゃないか。
早素振りも、周囲と同じスピードでできてなかっただろ」
ああ、やっぱりさっきは「無理やりほめて」たのね…。
ほんとは、全然できてない、って思ってたんだ。
そもそも、稽古から帰ってきてから、私のことについてはなかなか言い出さない時点で、そんな気がしてたんですよね。
「でも俺は、本人が上手くなりたくてやってるんだから、もっとできるようになってほしくてアドバイスしてるんだよ。
それに、このくらいはできているだろう、と思っているところは、わざわざ”できてる、すごいね”なんて言うのがお世辞みたいでわざとらしくて、言いたくないんだよ。
だから、今まで稽古もあまり見学に行かなかったんだよ。
俺は余計な事言っちゃうから。」
しかも、主人は私と同期のSWさんを「あの人は上手いよね」と言いました。
SWさんは子供が「お母さんと一緒ならやる」と言うので、その付き合いでやっているのです。
稽古に出れば真面目にはやっていますが、私ほどはやる気もないし、稽古の回数も私よりは少ないのに、確実に私より上手いんです。
私よりは若いとはいえ、同じような経験年数なのに、私とはセンスも体力も違うんだなと、いつも思い知らされているような気持ちではあったのです。
それだからSWさんが憎い、などとはちっとも思っていませんが…。
主人はSWさんと私を比較するつもりで言ったわけではないのでしょう。
実際、主人は私とSWさんがほぼ同期だということも知らなかったのです。
ただ単に、見た感じあの人上手いな、と思って言っただけなのでしょうが…。
いつも少し引け目を感じている私にとっては、相当複雑な気分でした。
そして、努力していても、できてない人は評価しなくて、
努力してなくても、才能があればほめるんだ、この人は。
と思いました。
そもそも、私は必死に努力しないとついていけないから、一生懸命やってるんですよ。
40なかば過ぎて剣道を始めた、体力も運動神経もセンスもないオバサンに、どれだけ求めてるわけ?
稽古についていってるだけでもほめてほしい、ってレベルなのに。
前から主人には
「私は初段審査、受かるかどうか微妙だよ。運がよければいけるけど、強い人に当たったら厳しいかも。受かるかどうかは五分五分ってところじゃないかな」
と、言っていました。
実際に、私はなかなか有効打突が取れていなかったので、本気でそう思っていたのですが、その言葉を主人は「謙遜」と取っていたのでしょうかねえ。
私が剣道を始めて間もない頃は、自分の体力(筋力)のなさや、姿勢の悪さが気になっていました。
何か言われた通りにやろうとしても、全然思うように体が動いてくれないのです。
とにかく、まず体を作らないと動けるようにはならないだろう、と思い、素振りやランニング、体幹トレーニングなどを地道に続けて、やっと姿勢が良くなってきたのです。
でも、筋肉がついたからって、すぐにセンスがついてくるわけじゃないんで…
しかも今年は、役員の仕事も忙しく、ケガもして、思うように稽古できてない期間もけっこうあったのです。
勝手にもっとできてると思いこまれて、そんなにできてないじゃん!って言われても。
私は、ちょっとがんばりすぎると体のどこかが痛くなったりするので、家での筋力トレーニングもいつも「ほどほど」でやめるようにしていました。
整体の先生にも「もともとの体のつくりが強いほうではないようですね」と言われてます。
整体の先生は
「オリンピック選手みたいな人は、努力ももちろんしているのでしょうけれども、それだけやっても大丈夫な地の力が生まれつきあるんです。
それがある人でないと、鍛えるのにも限界があるんです。
それは本人の力では、どうしようもないんですよ」
と言っていました。
私はその「限界」が、そんなに高いほうではないのだと思います…。
ちょっと前、SWさんに
「私のやる気と、SWさんの体が一緒になれば強くなりますよねえ〜」って冗談で言ったことがあります。
SWさんは体のつくりが丈夫そうなので、私に貸してほしいくらいです。
地の体力がけっこう強くて、たいして努力しなくてもそこそこ運動ができる主人には、私みたいな「一生懸命やっても、なかなか上達できない」という状態が、理解できないのでしょうね。
さらに「楽しいと言っているからには、できているんだろう」という思い込みもあったようで…
私が剣道を習い始める前、子供と一緒に素振りをやっていた時も
「素振りが楽しい」って言った時に
「お前、あれできちんと素振りができてるって思ってるのか?」
と言われたことがありました。
私は、できてるとかできてないとかじゃなくて、やるのが楽しいって言っただけなんですよ。
でも主人の場合は「楽しい=できている」ということしかないのでしょう。
私みたいに「人よりはできてないけど、練習をして、自分の中で少しでも上達できるのが楽しい」ってことが、理解できないのじゃないかと…。
前にもこういう話をしたはずなのに、やっぱりわかってくれてないんだな…。
(続く)